振り返ってみると、去年の夏ごろから、市販のスピリッツをベースに、スパイスやハーブを漬け込みながら香りの変化を確かめる“インフュージョン”の研究を始めました。
その過程で、近所のバーの方々と意見を交わしながら、香りの設計やレシピの整理を重ねていきました。
そして同年11月には、自分の料理とスパイスカレーに合わせて、香りの組み合わせをテーマにした小さなイベントを開かせてもらいました。
あれから、ちょうど1年になります。
それはサラリーマンとして生きてきた自分にとって、大きなチャレンジでした。
何を作るか、いくらで提供するか、野菜やお肉などの仕入れに至るまで、自分で買い出しをして仕込み、そして実際に提供する。
すべてを自分の手で行いました。
正直、思い切った挑戦ではありました。
終わった直後は忙しさと達成感に包まれましたが、それ以上に、自分の手で作った料理やお酒を通じて、空間を共有し、参加者の方々と直接やりとりをする——そのやりがいに、強い手応えと「手作りの実感」、そしてサラリーマン時代には感じられなかった充実感を得ることができました。
なぜそんなふうに感じたのかを考えてみると、やはり自分の作ったものをその場で食べて、飲んで、楽しんでもらい、その笑顔に立ち会えること。
それこそが、とても根源的な幸せなのではないかと思います。
そして、それに満足してもらえるということ——これは、長年サラリーマンとして働いてきた中では一度も味わったことのない感覚でした。
私は20年間、消費財メーカーやB2Bメーカーで営業、海外営業、新規事業開発、そして海外駐在員として事業を立ち上げる責任者を務めたり、経営企画や人事といった職務を経験してきました。
けれど、冒頭に挙げたような「手応え」「充実感」「ものづくりの喜び」を感じることは、正直一度もありませんでした。
去年の年末にかけて、奈良・宇陀で蒸留所を作る決意をしました。
新規参入のなかで、どうやって差別化するかを考え抜き、今年の春から新しいイベントを立ち上げました。
月に1回、多いときは2回開催しながら、イベント内容や運営、方向性を試行錯誤し、ブラッシュアップを重ねてきました。
そして夏には、「大阪ジンラリー」という街歩き型のイベントを、日本でおそらく初めて開催。
単なる店舗イベントではなく、クラフトジンを“街で楽しむ”という新しい体験を形にすることができました。
参加店舗の皆さん、そして参加してくださった方々のおかげで、個人主催の草の根イベントとしては大きな盛り上がりを生むことができました。
では、なぜ自分はイベントをやるのか。
自分は「イベント屋」になりたいわけではありません。
サラリーマンとしての経験しか持たない自分が、ジンを作り、蒸留所を立ち上げるということにおいて、知識や経験では到底かなわない人たちがたくさんいる。
それは自分の弱みであり、逃れられない現実です。
一方で、だからこそ自分の強みを見つめ直し、経験の少なさを補うために、着実に積み重ねる努力が必要だと考えています。
ただ、どれほどおいしいジンを作っても、それが実際に消費者の手に届かなければ意味がない。
蒸留所の数は全国で増え続けていますが、どうやって楽しむか、どうやって飲むかがまだ十分に伝わっていないと感じます。
「ジンって楽しいお酒だよね」
「種類が多くて、香りも面白い」
「和酒の代わりにもなるし、食中酒としてのペアリングもできる」
——そういった楽しみ方を広げたい。
だからこそ、イベントという形で伝える場を作ってきました。
イベントに参加してくれた方との交流や反応は、そのまま自分が作るジンの方向性や、市場の“リアルな温度”を感じることにつながります。
それがまた次のジンづくりへと循環していく。
そうした相互作用こそ、自分の活動の原動力になっています。
大阪ジンラリーを立ち上げ、成功できたことで、自分のブランドの独自性やポジションへの確かな手応えも感じました。
そして今、イベントを始めてから1年。
今年11月23日に行うイベントは、そんな一年間の集大成です。
この1年間で積極的に立ち上げてきたイベントも、ようやく「文化の芽」として育ち始めました。
だからこそ、ここで一度、立ち止まって原点を見つめ直したいと思っています。
来年は、さらにスケールを広げ、場所にもとらわれず、より完成度を高めたイベントとして進化させたい。
そのために、この11月23日のイベントを“一区切り”として位置づけています。
年内最後のイベントです。
そして、次に大きなイベントを行うのは、来年3月以降になります。
ぜひ、この節目の夜に立ち会っていただけたら嬉しいです。