なぜ宇陀なのか?

宇陀は、私にとってただの土地ではありません。

 

二十年前、新卒で入社したベビー用品メーカー・アップリカの工場が宇陀の近くにありました。営業職として配属されながら、毎月の製造会議や新商品の開発会議に参加し、工場見学で得意先を案内し、衝突試験センターで立ち会いも行いました。海外担当になった時には外国のお客様を案内したこともあり、宇陀という土地には多くの記憶があります。

 

特に忘れられないのは、新入社員に課された「現場に立つ」という経験です。週末には赤ちゃん本舗の売り場に立ち、製品販売や修理受付を担当しました。そこで気づいたのは、競合に比べて修理件数が明らかに多いこと。その違和感を無視できず、現場の販売員に協力してもらい修理伝票を3か月間集め、データとしてまとめ、社長に直談判しました。結果的に品質改善にはつながらなかったものの、数年後に同じ部位を原因とする大規模リコールが起き、当時の自分の指摘が正しかったと証明されました。

 

この経験は、「理想や正義感だけではなく、証拠を揃えて実行力で動かさなければ世界は変えられない」という学びになり、今も自分の原点として残っています。

 

その後、サラリーマンとして走り続ける中で心身を壊し、鬱病を発症。一度は復職しましたが再発を機に退職を決意しました。そのタイミングで十年ぶりに宇陀を訪れ、森や川に囲まれた景色を前に「ここで事業を起こしたい」と直感しました。

 

さらに、宇陀市およびその周辺地域の体験移住施設に月1回・1間ほど滞在を繰り返す中で、地域の人々とのつながりが自然に育まれました。最初は宿泊業を志して物件を探していましたが、行き詰まりを感じる中で「やっぱり自分はジンで挑戦する」と覚悟を固めました。

 

宇陀は、挑戦の原点であり、自分らしさを取り戻した場所であり、人生をやり直す舞台です。

ここに蒸留所を築き、この土地の名を「訪れたい」と思わせる香りとともに遠くまで届けたいと思っています。